彫刻家 村上勝美氏が語る
田舎暮らし
私の60余年の半生を振り返ると、多くの国々と地域を住み分けたことに驚かされた。
どこにも独自の風土があり、そこにだけに存在する風景に魅入った日々でもあった。
その地の人々のなかに解けこみ、人、風物との交流を通して小さな美を見つけだす行為の連続であったように思われる。
思えば、父母の許に生まれて兄弟や友人と共に成長しながら、何度も住む場所を変えてきた私に「定住」という感覚は生まれなかった。
しいて表現するなら、多くの場所に「滞在した」であろう。故郷も現在住む場所も現世さえも含めて、滞在しているのである。
ベッドと風呂と煮炊きするカマドと、御飯用、みそ汁用、漬物用の器。箸とスプーンがあれば生活には支障をきたさない。
物を集める習慣を持つとキリがない。衣類も最小限に抑える私の生活は快適である。
地方で暮らすということは、不自由や不便を楽しむ事であると思える。
誰をも憎まない生活は、爽やかな毎朝のめざめを約束してくれた。
一度は眼醒めない朝がくるだろうが、その直前まで爽やかさだけは持ち続けたいものである。
もの造りについて
━━━1Fがアトリエ&ギャラリーで2Fが生活空間
制作過程での行為は、人々から頂戴した思い遣りや親切をメモ書きとして綴っているのである。結果として生まれ出る物が私の作品であった。
時として、権力に対する怒りのようなものが心に芽生えることもある。その思いを表現しようと炎と火花をまき散らしながら鉄を捏ねると、そこに現われ出るものは怒りなどは微塵もない私の分身である作品だった。
過去の私の作品のなかに、ある人物の顔面を含む前頭部を一枚の金属板から絞りあげたものがある。作者自身が特に満足した作品であった。それが左の写真である。
この仮面の顔面凹凸は、反対側の前頭部の内面には反対の凹凸が形成されることになる。
光を当てた仮面の裏側を観ると、光と影の効果から外側の本来の表情が正確に写し出されていた。同じ裏側を覗き込む自分の眼の位置を様々に変えてみると、悲しげな顔になったり、喜びの顔になったり、怒りの顔になったりと変幻する。まったくの偶然の発見であった。
確かに、世に生きる総ての人々の冷静沈着な表情の裏側には、喜怒哀楽の感情が押し込められているのである。
インタビュアー:ひろの
工事初期の様子(福島環境整備(株)社員と)
プロフィール
村上 勝美 Katsumi Murakami
1948年:福岡県福岡市に生まれる
1970年:日大芸術学部卒業
コレクション
ウェストワシントン大学ギャラリー
ベリンハム市
フェアフェブン大学
大牟田ガーデンホテル
福島県石川町
福島県石川町クリスタルパーク
石垣市立図書館
むさしの郊外美術館
ワシントン州ワトコムランドトラスト
ナブロン(サンクリストバル・デラス・カサス)
メキシコ
ファイアットビル美術館
ファイアットビル州立大学